<本講義の目的>
「自分の研究にDNA分析を導入したいが、どうやって進めていけばよいか分らない」といった方に、できるだけ具体的に研究着手を促すことを目的とします。DNA分析の流れを掴むことを第一義とし、先行研究の探索や実験環境の整備、分子生物学的手法(実験)、データ処理と統計解析、結果の解釈までの一連の作業を解説します。個々の項目についての掘り下げが浅くなることはご了承ください。時間の許すかぎり、参加者それぞれに対し個別の研究相談に応じるよう対応します。
<本講義の参加者として想定している方>
すでに何らかの鳥類を対象に生態学的あるいはその他のアプローチで研究を進めている方を受講者として想定しています。もちろんこれから研究を始める方でもかまいませんが、実際にどういった目的でDNA分析を導入したいか、研究の方向性をイメージできていることが望ましいです。
DNA分析を用いた研究項目として、たとえば以下のような内容を想定していますが、これ以外の内容についても気軽ににご相談ください。
種間の系統関係の推定、種(亜種)判別、個体群の遺伝的多様度の算出、個体群(亜種)間の遺伝的差異の判定、親子判定、個体間の血縁度の算出、性別判定・・・
DNA分析の経験の有無は問いませんが、「DNAとは何か、遺伝子とは何か」といったごく基本的な遺伝学・分子生物学の講義は行いませんので、すでにDNAに関して一般向け解説書レベルの知識を有するか、あるいはこれからご自分で勉強する意思を持っていることを望みます。
・すでにDNA分析や遺伝学的・系統学的な解析を行っている方
参加していただいてもあまり真新しい知見は得られないかもしれませんが、この分野は様々な手法やアプリケーションが次々と更新されていますので、何かしらの情報交換はできるかもしれません。より良い方法について意見交換・提案するというスタンスでアドバイザーとして参加いただけると助かります。
<講義内容の概要>
1、研究への着手、研究環境の整備
先行研究の論文の有無や実験手法の確立状況など、参加者の研究対象種や研究目的に関した情報の探索方法について概説します。参加者によって研究環境(所属機関など)が様々に異なるでしょうから、できるだけ個々人に適した研究環境の整備について相談にのれるよう取り計らいます。たとえば、自ら実験できる環境にない場合(大学や研究機関の実験室などが使えないなど)は、他の研究機関との共同研究を進めるうえで必要となる項目(どういった研究設備を持っている機関に依頼するかなど)をいっしょに考えていきます。
2、実験
研究目的に応じて様々な分子生物学的手法を用いた実験が必要となりますが、なかでも最も基本となるPCR分析とアガロース電気泳動を実際に行います。実験に用いる試薬の購入のため、受講者から1000-2000円を徴収させていただくことになる予定です。実験には、数名のチューターを付ける予定ですので、全くDNA実験の経験がない方へも、できるだけ丁寧な指導を心掛けます。
鳥類生態学に関係する分析手法として、オートシークエンサーを用いた塩基配列の解読やフラグメント解析、サザンブロッティング法、大腸菌の培養などが必要となることがあります。それらについては、今回の行程には含みませんが、参加者の研究目的に応じてどのような実験が必要かを紹介します。
DNA抽出作業についても、今回の実験行程には含めません。講義形式でサンプルの種類(血液、組織片、羽など)に応じたDNA抽出方法の概要を解説します。参加者の対象生物や採取可能なサンプル、実験環境や予算に応じて、適した抽出方法について紹介します。
3、データ処理
実験によって得られたデータの一次的な取扱いについて説明します。具体的には、塩基配列(ミトコンドリアDNAのコントロール領域やチトクロームbなど)の取扱い、およびマイクロサテライトDNAのフラグメントデータの取扱いを紹介します。数値計算や統計処理を行うアプリケーションを利用するためのインプットファイルを作成します。
4、統計解析
無料で使用できるアプリケーション(Mega, Genepop, Arlequinなど)を用いて、系統樹の作成、個体群間の遺伝距離の算出などを行います。時間に余裕があればassignment test, 血縁度の計算、親子判定などの中から、参加者の希望に応じて解説します。時間が限られていますので、数式の解釈や統計手法の理論背景については大半を割愛します。系統解析、個体群の遺伝的特徴の数値化、血縁度の計算などには様々な計算方法や統計処理が用いられています。それら個々について本講義内に解説することは不可能ですが、個々の手法の特徴を比較するなどし、どのような目的に対してどのような計算や統計処理が必要かを概説します。また、理論背景や異なる統計的手法について勉強するための参考書籍やホームページなどを紹介します。
<参加にあたっての必要事項>
・実験に用いる試薬(Taq polymeraseなど)の購入のため、受講者から1000-2000円を徴収させていただくことになると思います。
・データ処理や統計解析を行うためパソコンが必要となります。参加者が使用するパソコンを準備中ですが、できるだけ各自でノートパソコン(Windows)を用意・持参してください。また、各自のパソコンに必要なアプリケーションを事前にインストールしていただくことになると思います。詳細は事前に連絡します。ノートパソコンをお持ちでない方にも対応しますので、ご相談ください。
・各参加者に対してできるだけ具体的に研究の手助けができるよう、研究対象種、フィールド環境(入手可能なサンプルの種類やその入手方法)、DNA分析を用いて行いたい研究内容などを事前にお訊ねさせていただく場合があります。
<参加申し込み>
申し込み制で、定員は 20 名です。
参加をご希望の方は、企画委員 吉田保志子(hyoshida@affrc.go.jp)までメールでお申し込みください。定員に達し次第、締め切らせて頂きます。
<講座「鳥の学校」の実施方針>
日本鳥学会では、研究の意欲はあるが調査や分析、論文化のしかたがよくわからないという会員を対象とする講座「鳥の学校」を実施しています。観察や発見は論文として発表されてこそ後世に残り、鳥学の進歩や鳥類の保全に役立ちます。講座「鳥の学校」においては、論文を書く技術を習得するための講義と演習を行います。受講者に将来的に目指してもらう目標は、学術雑誌に原著論文・短報・観察記録などを投稿し、掲載することです。そのために、科学論文の基本と構成、初歩の統計的検定、批判的な目で論文を解読する演習といった、基本的な内容の講座を繰り返し実施していきます。
鳥学研究の推進をはかるためのもう一つの取り組みとして、「鳥の学校−テーマ別講習会−」を中上級編の講座として開きます。「鳥の学校−テーマ別講習会−」では、鳥学会員および会員外の専門家を講師として迎え、会員のレベルアップに役立つ講演や実習を行っていきます。具体的には、専門外の知識や技術、最新の統計解析手法などの習得、またそれらを通じた異分野交流の機会の提供をめざします。