第6章 アメリカの制度と経験:有害廃棄物政策 *  

はじめに *

一 スーパーファンド問題 *
 

1.スーバーファンドの仕組と意義 *

2.スーパーファンドによる浄化の到達点と問題点 *

3.優先順位の間題 *

4.浄化基準と効果の間題 *

5.「取引費用」問題 *

6.州のスーパーファンドの役割 *

7.スーパーファンドの運用改善策と改正案 *
 

資源保全再生法問題 *
  1.資源保全再生法の仕組と意義 *

2.マニフェスト(積荷目録)制の効果 *

3.埋め立て規制 *

4.リサイクルの間題点 *

5.資源保全再生法の再授権間題 *

むすび―日本が学ぶべきこと *

 

 


 

第6章 アメリカの制度と経験:有害廃棄物政策

 

はじめに  「有毒物による人種差別」(toxic racism)、という用語をご存じであろうか。アメリカの環境情報公開制度(有毒化学物質放出年間目録)(第5章参照)によって、カリフォルニア州ではロサンゼルス近くの郵便番号90058の区域がもっとも汚染されていることが判明した。例えば、1989年にはこの地域で18の工場が約1万5000トンの化学物質(鉛、アンモニア、有機塩素系溶剤等)を放出していた。この地域は黒人が59%、ヒスパニックが38%を占めている。サンフランシスコ近郊の石油工場の立地するリッチモンドからメキシコ国境サンディエゴにおいても、マイノリティ(少数民族)が汚染を多く受けるという、これと同じパターンがみられる。マイノリティの子供ほど多くの鉛・PCB・アスベストの被害を受けているのである。またカリフォルニア州の30万人の農業労働者の約80-90%がヒスパニックと黒人で、農薬使用の影響とみられる子供のガンが多数報告されている(1)

 全米で見てもインディアンの居留地が有害廃棄物・放射性廃棄物の処分場の候補地として標的になり、南部諸州の主要廃棄物埋め立て地も黒人居住区に隣接している。このような事態が生ずるのは、1つにはマイノリティは周辺環境が悪化してもそこから脱出できる経済的条件に比較的に恵まれず、2つには失業率も高く、仕事の提供と見返りに汚染施設を受け入れざるを得ないからであるといわれる。

 キリスト教会連合「人種の正義」委員会が、はじめて1987年に全米を対象にまとめた調査『有害廃棄物と人種』(2)によれば以下の事態が明らかとなった。

  1. 2つ以上の商業用有害廃棄物施設のある地域では、マイノリティ人口の比率が施設のないの地域よりも3倍である(38%対12%)。
  2. 1つの商業用有害廃棄物施設のある地域のマイノリティ人口の比率は、施設がない地域の2倍である(24%対12%)。
  3. 黒人とヒスパニックの5人に3人が、規制されていない有害廃棄物サイトのある地域に居住している。
 以上のような事態を「有毒物による人種差別」(3)といいうるかについては、議論のあるところだが、確かなことは有害廃棄物による汚染と被害には、経済的条件と結び付いた被害構造が明らかに見られるという点である。このことはつとに日本の公害問題の歴史が示しているところであり、「有毒物による人種差別」といわれる事態はそのアメリカ的表現であるといえる。しかしそれだけならば、今とりたててアメリカの有害廃棄物問題をとりあげる必要はないであろう。ここであえてこれを問題とするのは、現在アメリカが最も深刻な有害廃棄物問題に直面し、この問題を解決するために様々な枠組みをつくり、試行錯誤を続けているからである。環境経済学の理論的問題として見た場合、有害廃棄物管理の経済的インセンティブと規制のあり方、およびその限界についての恰好の素材を提供しており、実践的には有害廃棄物の最終責任者の追及等、程度の差はあれ同じ問題をかかえる日本にとっての貴重な先行事例を示している。もとよりアメリカと日本とでは環境問題をめぐる歴史的経験や制度的枠組みが異なり、裁判制度の役割や文化的背景の違いについても考慮すべきことはいうまでもない。

 ところで、アメリカの有害廃棄物の管理体系は、大きくわけて、過去の有害廃棄物による汚染、いわゆる「ストック公害」に対するスーパーファンド体系と、現存のフローの有害廃棄物を管理する資源保全再生法(RCRA)体系があり、さらに化学物質の生産を規制する有害物質管理法(TSCA)等の一連の管理体系をもつ。このほか、各州が独自のスーパーファンドをもち、規制を行っている点も重要である。またこれ以外に国防省、エネルギー省関係の軍事施設による汚染とその浄化への取り組みがあり、その規模はスーパーファンド、資源保全再生法を上回る(4)

 マニフェスト制度(積荷目録制度)で知られる、「ゆリかごから墓場まで」の有害廃棄物の管理をめざした資源保全再生法が発足したのは1976年である。その後、埋め立て地に対する厳しい規制を議会が求めてこれが1984年に改正され、その性格が大きく変わった。他方、ラブキャナル事件(ナイヤガラの滝近くで起きた、元化学廃棄物投棄地に立てられた住宅地の汚染問題)に代表される過去の有害廃棄物による汚染に対処すべく、とりあえず期限5年でスーパーファンド制度(CERCLA)が成立したのは1980年である(予算16億ドル)。その後浄化すべき汚染地の拡大を背景にして、議会と住民運動が求めた環境情報公開制度をとり入れて、スーパーファンド法はスーパーファンド修正法(SARA)として、1986年に再授権(期限付き法律を改正し再延長すること)された(予算85億ドル)。さらにこれは1990年末に3たび4年間延長され(予算51億ドル)、1996年以降は期限切れの状態となり、残りのファンドで運営されている。

 カーター大統領時代にはじめられた両制度は、レーガン大統領時代になって規制緩和政策のために、この制度に対する環境保護庁(EPA)による執行が弱められた。実際、環境保護庁はスーパーファンドの再授権を予想せず、議会の認めたスーパーファンド予算の約60%しか使わなかったのである。これに対して議会側がより強い執行を求め対立が続き、議会側が厳しい資源保全再生法とスーパーファンド法の改正を行うという経過をたどった。議会が立案した法律自体の複雑さもあり、環境保護庁は法律が定めた基準設定を期限内にできないという事態が続いた。議会は選挙民目あてに大気と水の「安全」や「ゼロ排出」という「花」をさかせたが、実際の環境保護庁による執行との間に大きなギャップが生じ、環境モニターや検査は後まわしにされた(5)。こうした事態は、レーガン大統領時代に大気浄化法や医療・教育の分野でも生じたのである。議会の立法と環境保護庁による執行のギャップは、有害廃棄物管理の分野ではスーパーファンドによる汚染地の浄化がなかなか進まない事態と、それへの批判としてしばしば問題とされてきたのである。

 以上のような法律と執行のギャップの問題とともに注目すべきは、スーパーファンドと資源保全再生法の制度自体に多数の例外規定・延期・暫定措置があり、これが事実上の「ぬけ穴」となっている点である。とくに対象とされる有害廃棄物は、スーパーファンド法では石油関係品が対象外であり、資源保全再生法でも多くの廃棄物(鉱業・セメントキルン・農業・家庭系廃棄物)が除外されている。これはいうまでもなく業界等のロビー活動と議会の妥協の産物である。もちろん、環境団体のロビー活動も盛んで、そのために有害廃棄物の対象範囲や規制基準がたえず争点となってきたのである。これらのことは、結局アメリカの政治議会制度の特質によるものといってよく、日本と比べて議会自体が強力な立法権限と能力をもつことと、環境団体も強力なロビー活動を行っている点が重要である。政府と業界との関係では、日本と比べ分野によって異なるものの、業界内部の自主規制やまとまりが比較的弱く、環境保護庁が直接こと細かに決めた基準や許可を個別業者が守らなければならず、「レッド・テープ」(お役所流)の弊害としてよく問題とされる(6)

 

一 スーパーファンド問題 1.スーバーファンドの仕組と意義

 スーパーファンド体系の特徴は、有害物質の浄化費用に関する責任を定めて当事者に浄化を行わせる一方、環境保護庁自体が浄化を行った場合、その費用をスーパーファンド(有害廃棄物信託基金)から支出し、あとから責任当事者にその費用の支払いを求めることができるところにある。

 基金は、石油税、化学原料物質税、輸入化学物質誘導体税、1986年の改正の際新しく導入された環境法人税(課税最低限度所得が200万ドルを超える企業に課税)、国の一般会計からの支出、利子及び経費の回収等から拠出される。1981-93年にかけての基金の内訳は、石油税39億ドル、化学原料物質税等27億ドル、環境法人税32億ドル、国の支出19億ドル、利子11億ドル、経費の回収7億ドルである(7)。このほか1986年の改正の際、廃棄物税(waste end tax)という廃棄物それ自体にかかる税が下院から提案されたが、成立しなかった(8)。廃棄物自体にかけられる税金で浄化事業を行うという方式は、一部の州のスーパーファンドで実施されている。廃棄物削減への刺激として注目すべきものであるが、連邦のスーパーファンドでは行政的可能性と所得発生の捕促性から、さきのような原料税や環境法人税が基礎となった。要するに、とりやすいところから税金をとった傾向があり、これでは汚染をとめる経済的刺激として働きにくい(9)。

 ここで、企業に対して汚染を起こさせないように作用している最大の要因は、浄化責任者と浄化範囲が非常に広範である点である。だがまさにこの責任規定が浄化事業を遅らせ、基金や各当事者の費用を直接の浄化事業以外の裁判や調査への支出、いわゆる「取引費用」が大きくなっている原因でもある。

 

2.スーパーファンドによる浄化の到達点と問題点

 こうして始められた浄化事業の現状を見ておくと、4万近くの汚染地点がスーパーファンドの潜在的対象として検討され、緊急の浄化対策がとられ、環境保護庁が浄化事業を決定した全米浄化順位表(NPL)地点は約1400か所以上にのぼる(うち約1割は軍事基地等の連邦の施設)。しかし、NPL地点のうち浄化に着手したものは約90%だが、完了したのは約3分の1である(1997年9月までに498地点)(10)。浄化完了までに1996年で平均10年はかかっている。責任当事者による浄化事業の比率は高まっているものの、1997年にはスーパーファンド地点の約4分の1は責任者不明である。

 現行スーパーファンド制度のかかえる管理執行上の問題点を、もっとも詳しく体系的に分析した議会技術評価局(OTA)の報告書『クリーンになる(Coming Clean)(1989年)(11)は、現行制度の主要な問題点として、

@政策執行に一貫した戦略がない、

A政府・民間・地域の効果的な協力関係がない、

B浄化を行うための基盤整備(要員の教育研修、データベース、研究開発)が遅れている。

という点を指摘し、非効率の原因としては、

@浄化事業の半分以上は将来のはっきりしないリスクへ向けられている、

A他方で約75%の浄化は長期的には有効ではない(12)

B行政費用、「取引費用」が不要に高くなっている、

 という。具体的には全米浄化順位表(NPL)の規模(約1400)は一時的な政策選択の結果であって、再検討が必要である。今後10年間に環境保護庁によっても少なくとも約900か所の追加が見込まれ、議会技術評価局(OTA)は約9000か所と推計している。場所によって浄化の程度が異なったり、汚染物質を他の場所にたんに移すことによって「浄化」をすませたとする「メリー・ゴー・ラウンド」現象も起きている。こうした批判を受けとめて、環境保護庁側はライリー長官自ら、スーパーファンド制度の見直しを行い、いわゆる『90日調査』(1989年)(13)をまとめた。その要点は、

@急性の脅威への即座の対応、

A最悪地点への対応を第1に、

B長期的モニター、

C基金を使うよりも事業責任者による浄化を進める、

Dより効果的な技術を開発する、

E浄化作業の効率を高める、

F地域住民の参加を進めるという点であり、具体的には、

@1990年9月までにスーパーファンドの要員を約500人ふやす、

A事業責任者による浄化率を50%にする、

B事業責任者からの資金回収を1993年までに約3億ドルにする、

という目標を明らかにした。さらに1991年7月には契約業者問題への世論の批判をきっかけに、『30日調査』(14)を発表し、全米スーパーファンド理事会を設置し、責任を集中化し、問題解決班を設置し、管理と会計監査の強化をうち出した。

 

3.優先順位の間題

 スーパーファンドによる浄化の効果に疑問が向けられるなか、アメリカの環境政策における有害廃棄物による汚染の浄化を位置づける問題提起をし、大きな議論を呼んだのは環境保護庁科学諮問委員会の報告『リスクを削減する(Reducing Risk)(1990年9月)15)である。この報告はアメリカの環境政策には一貫性がないとする立場から、それを正す方法として、異なる環境リスクを比較して、重要な環境リスクを減らすための代替戦略を提起する。報告は、環境保護庁が自然の生態系の重要な価値に注意を払ってこなかったと批判し、自然の生態と人間の福祉にとっての相対的に高いリスクの問題群として、環境負荷の広さ・媒体の多様性・回復期間の長さから見て、「自生生物の変化と破壊」、「種の絶滅と生物学的多様性の喪失」、「オゾン層の破壊」、「地球気候変動」をあげる。中程度のリスク群としては農薬・水中の有毒物・大気の有毒物を指摘し、低程度のリスク群として石油の漏れ・地下水汚染・放射能・酸性雨・熱汚染を位置づける。この最後の問題群こそスーパーファンドが取り組んでいる対象であって、報告がそれを「低程度のリスク群」とし、「公衆のリスクについての受けとめと専門家のそれとのズレ」の典型例としたことは、大きな議論を呼んだ。環境保護団体からの反発は強く、オゾン層保護と有毒物質対策は二者択一の問題ではないという批判が続いた。環境保護庁科学諮問委員会の報告は、環境政策の一貫性と環境対策のための資源配分と効果の問題を提起したことは評価できようが、現実には生態学的なリスクも有毒物質も十分対策が打てていない段階で、優先順位づけを行い、「あれか、これか」式の問題のたて方を行ったと受けとめられる面がある。

 これに関連して公共政策学者のジョン・ハードは、有害廃棄物以外のラドン・鉛・アスベスト等の重大な環境汚染には、スーパーファンドと比べてわずかの対策資金しか使われていないと指摘し、環境リスク評価に公衆を参加させる方向でスーパーファンド制度を改革する提案を行っている(16)。

 

4.浄化基準と効果の間題

 スーパーファンドによる浄化の際に環境問題として1番問題となるのは、浄化の基準と効果であり、どの水準まで浄化するのか(How clean is clean)は、浄化の方法・費用に密接に関係する。水質等は他の環境法に適合した浄化基準が決められているものの、現実には汚染地点ごとに目標が異なり、それを各地の浄化責任当事者の弁護士が知り、活用して浄化費用を下げる動きもあるという(17)。

 もちろん、汚染地点の状況、人間の被曝の可能性の程度によって浄化の水準が異なることはありうるし、必要でもある。問題は議会技術評価局(OTA)も指摘するように、浄化の効果が十分に検討されないままに、ただ地下水が汲み上げ続けられるとか、あるいは短期的措置にとどまるという事態である。

 スーパーファンドによる浄化改善措置の50例を検討した研究(18)では、浄化の決定は現実のリスクよりも汚染の存在自体に基づいており、浄化によるリスク低下のアセスメントも欠けていることが多いという。例えば、汚染物質に対する実際の人間の被曝は22%の地点でしかおきていない。他方で、いくつかの地点では生態学的なリスクが存在しているにもかかわらず、アセスメントが行われていないという。

 最近の全米浄化順位表(NPL)サイトの決定記録(ROD)に基づく分析によれば(19)、スーパーファンド地点の浄化にあたっては、公衆の健康が基本的に考慮され、発ガンと非発ガンリスクが浄化の基準となっているが、被曝人口の大きさや期待発ガン増加数は十分考えられていないという。

 環境保護庁本部は、以上の問題について、浄化事業決定の記録(ROD)を見直して、浄化水準が地域によって大幅に異ならないように、一貫性をもったものにするための作業を現在行っているという。

 

5.「取引費用」問題

 スーパーファンドの浄化をめぐる制度上の最大の問題の1つは、浄化基金や企業の浄化関連資金が浄化そのものに使われず、浄化責任をめぐる裁判や土地取引の際の汚染調査のために使われ、その額も巨額にのぼるという事態である(「取引費用」については補章参照)。正確ところは明らかでないものの、旧スーパーファンド時代でも約30%が司法費用にかかったといわれ、環境保護庁自体は、今後1800の全米浄化順位表(NPL)地点を浄化するには146億ドルかかるが、そのうち総司法費用は80億ドル、つまり過半に達するとみている(20)。

 1992年のランド社の研究によれば、全米浄化順位表(NPL)の49地点における複数潜在的責任当事者の支出の19%が取引費用であり(21)、続く1993年のランド社の調査では、潜在的責任当事者の支出の32%が取引費用で(22)、1994年の会計検査院の調査では367の大企業のスーパーファンド関係支出の3分の1が取引費用であった(23)。議会予算局によれば、1994年では、連邦スーパーファンド予算の15-18%が取引費用であり、潜在的責任当事者と保険会社の支出の32%が取引費用で、両者併せて27%になる(24)。

 「取引費用」や行政費用が非常に高くなっているという議会技術評価局(OTA)の批判に対して、環境保護庁側は「取引費用」がかかるのは、このスーパーファンド法制度そのものが汚染者の責任範囲を広く定めた結果であり、行政費用そのものは議会技術評価局の推計(44%)とは異なり、もっと少なく20%であると反論している(25)。たしかに環境保護庁のいうとおり、現行の法体系が厳格・連帯・遡及責任・金融機関にまで及ぶ責任を定めたために、これが企業への汚染防止の歯止として機能する反面で、裁判の多発を招いている。この点において、議会側の議会技術評価局報告は、議会がつくった現行法の問題の核心には触れていないのである。汚染責任をめぐり、環境保護庁が企業を訴え、市民グループが環境保護庁と企業を訴え、他方企業は他の企業と保険会社を訴えるという事態が続いている。問題は、あまりにも多くの関係者が裁判に訴えるところにある。

 もともと日米間で裁判提訴のもつ社会的意味が異なり、日本では交渉がこじれて最終的に裁判となることが多いのに対して、アメリカでは話し合いのはじまり、要求の提示として裁判提訴が行われる。たしかに、「訴訟社会アメリカ」といわれるように、裁判にかかる費用と時間がアメリカ経済を停滞させている面がある。現在、アメリカには環境専門の法律事務所が約50、弁護士が約2万人いると推定されている。スーパーファンド関連裁判自体が、「ビッグ・ビジネス」といわれる所以である。しかし同時に、さきにのべた日米間の制度上の相違を見ておく必要があろう。

 「取引費用」が異常に高く、スーパーファンドのうち実際の浄化に使われる部分が少ないという事態に対して、いくつかの改革案が出されている。その1つは、浄化費用の負担をめぐって当該企業と保険会社の間で起きていた訴訟を減らすために提案されている、環境保険調停基金構想(EIRF)である。これは保険会社から税金として一定額を徴収し、これをもって土壌浄化の原資の1つとするとともに、保険会社への求償を断ち切ろうとするものである。しかし、中小保険会社の団体からの反対も強く成立していない。

 スーパーファンドの経済的影響について、未来資源研究所の研究によれば、

@1134の連邦以外の全米浄化順位表の浄化は、多くの財政的負担を産業にはかけていない。例外的に鉱業や保険業への影響は大きい、

Aスーパーファンド関連税も、経済全体には影響は少ない、

B税金をとるための時間とコストがかかっている(26)。

 議会予算局によれば、スーパーファンドの責任の70%は1981年以前の行為、95%は1987年以前のものであり、これを期限をつけて免責にすれば、取引費用は下がるが、連邦の浄化支出は増えるというトレードオフがある(27)。

 このほか、法律施行以前の過去の汚染については責任を軽くして、過去の操業や汚染データを出させるようにするとか、補償方式をより柔軟にする、さらに「公共事業」方式にする(28)、等の提言は出されたが、本格的な議論にはいたらなかった。

 以上の金融機関の責任問題や調停基金案は本来、1990年末のスーパーファンドの再々授権(2度目の延長)の際に議論されるはずであったが、1986年の再授権の際のような大きな議論と混乱を避けるため、ほとんど問題とならず、改革されないまま、スーパーファンド法は1990年末そのまま再々授権されたのである。

 

6.州のスーパーファンドの役割

 連邦スーパーファンドは全米浄化順位表(NPL、約1400地点)をつくり、それのみの浄化を行っている。そのため全米浄化順位表プログラムに入らないが、浄化を必要とする汚染地点は各州ごとにスーパーファンドをつくり、浄化を行うことになる。1995年で各州の報告によれば、全米で約8万5000の汚染地点を確認し、そのうち約4万4000地点で対策を完了している。このように州のスーパーファンドは数から見れば連邦のスーパーファンドを上回り、全米の汚染浄化への取り組みを見るうえで看過できない役割を担っている(29)。

 全米でワシントンD..とネブラスカ州をのぞく州が基金と執行機関をもち、スタッフは約700人のニュージャージー州をはじめとして、カリフォルニア州、マサチューセッツ州、ニューヨーク州等が多い。12州が独自の浄化基準をもち、浄化の法的責任の性格は34州が厳格・連帯責任主義をとっている。基金の源泉は、廃棄物料金から23州、費用回収から17州、税金から15州、科料・罰金から14州、一般収入から13州、公債から12州、等となっている(30)

 全米でも多くの州スーパーファンド地点をもつカリフォルニア州の基金財源は、有害物質会計と浄化公債の2つの柱からなる。有害物質会計は貯蔵・処分施設料、廃棄物発生者料、埋め立て許可料、環境料等、ようするに廃棄物の発生・処分行為にかけられるので一見すると「汚染者支払いの原則」(PPP)に対応しているようにみえる。しかし、子細に検討すると、埋め立てを制限・禁止すれば、入るはずの処分料金は減ってしまう結果、基金は減少することになる。

 この問題は、結局、現在の汚染行為者から料金をとって過去の汚染浄化をはかろうとするところに起因する。この点に関連して、州のスーパーファンドの実績は州の基金の大きさが決定的であるという研究もある(31)。そこで結局、基金財源に頼るよりも汚染行為者をさがし出して交渉し、浄化を行わせる方向が強化され、現実にもその比率が高くなっている(32)

 いずれにしても、過去の汚染を浄化し、かつ現在の有害廃棄物を規制するうえで、州の役割は非常に大きい。とくにレーガン大統領時代に連邦環境保護庁の執行・規制がゆるめられた時期には、州が重要な役割を担った。しかし同時に、各州ごとの規制水準に相違が生じたために、産業界から不満の声が上り、かつ環境規制水準が企業立地の重要な要因となりつつあることも注意すべきである。

 

7.スーパーファンドの運用改善策と改正案

 以上のべてきたスーパーファンド制度の問題点を改善するために、1993年6月に環境保護庁は一連の改善策を発表した。それは、まず、公正な法の運用と訴訟費用の抑制をめざし、@責任分担割合を決定する各種手段の利用拡大、A汚染寄与割合の小さい潜在的責任当事者との合意の促進、B汚染地所有者へのより公正な対応、C潜在的責任当事者と環境保護庁による共同浄化費用負担方式を再検討する。浄化の効果と一貫性の向上をめざして、D浄化プロセスの簡素化、E土壌汚染選別基準の策定、を行う。一般市民の関与の拡大をめざして、F公正な浄化の実現、G早期の段階での、より効果的な市民の関与をはかり、州の役割の強化をめざして、H汚染地の「州への移管」を進める、というものである(33)。

 さらにこれを徹底させ、政府は1994年2月にスーパーファンド法改正法案を発表した。その主な改正点は、つぎのとおりである(34)。

@地域住民の参加の促進

A州の権限の拡大

B浄化費用分担に関する最終合意の迅速化(汚染寄与割合の少ない潜在的責任当事者の浄化費用分担決定の迅速化)

C汚染地の新規購入者の一定条件下における浄化責任の免除(15万エーカーにおよぶブラウンフィールドすなわち軽微汚染地の再開発を容易にする)

D一定条件を充たす金融機関および受託者の浄化責任の免除

E保険金支払い請求の訴訟によらない解決(環境保険調停基金の創設)

F浄化措置選択における浄化コストの評価

 しかしながら、保険会社間の意見の対立や議会会期の時間切れでこの改正案は議会を通過しなかった。

 その後、1996年に入り、スーパーファンド法の期限が切れ、ファンドのための課税はされず、残されたファンドが浄化に使われている。共和党側からは少量寄与者や土地所有者の免責の法案(法案番号H..3000,..2727)が出されている。最大の問題は、遡及の限定と費用負担配分問題である。しかし、スーパーファンド法そのものは廃止されることはないというのが大方の見方である。

 

二資源保全再生法問題 1.資源保全再生法の仕組と意義

 資源保全再生法(RCRA)は、有害廃棄物の処理・貯蔵・輸送・処分に至る規制を行うもので、まさに有害廃棄物の「ゆリかごから墓場まで」の管理をめざしている。スーパーファンドほどは目だたない存在であるが、現存するフローの有害廃棄物の管理という点では一層重要であり、スーパーファンドのような基金はなく、経済的費用も多くかかる。たとえば資源保全再生法で規定された埋め立て制限を実施するための費用は、スーパーファンドのそれの約5倍にのぼる(1995年推定)

 資源保全再生法は、「固形廃棄物」(液体・ガス体も含まれる)と「有害廃棄物」を定め、管理対象としている。しかし例外規定も多く、再生油・鉱業廃棄物等は規制対象からはずされている。同法はのちにくわしく検討する有害廃棄物の「マニフェスト制(積荷目録制度)」と「埋め立て規制」、「地下貯蔵タンクの規制」(35)、「浄化義務」等を柱として運営されている。資源保全再生法が1976年に施行されて10年以上たち、環境保護庁は1990年7月に同法の総括書(36)を提出した。報告は「これまでの経過」をふりかえり、1984年の有害・固形廃棄物改正法(HSWA)によって資源保全再生法の性格が大きく変わったとする。それは有害廃棄物の埋め立てを実質上中止させ、埋め立て地・施設からの漏れを減らし、少量発生者も規制対象とし、廃棄物削減をはかったからである。結果として、資源保全再生法の規制対象も大幅にふえた。これは議会側が次々と強い規制を打ち出した結果であるが、他方これは長期的評価に欠け、代替案のよく検討されていない問題があるという。たとえば、埋め立て規制の結果として、汚染が焼却の増加等で土地から大気や水へ移ったかどうかよく注意すべきであるとする。

 報告は資源保全再生法の規制機構について、余りにも多すぎ、かつ変化が速すぎるという。たとえば「埋め立て規制」問題では長い期間にわたり何段階かの規制が出されたので混乱した。また「固形廃棄物」と「有害廃棄物」の定義がまぎらわしい、等である。

 資源保全再生法の規制対象施設の「許可」について見ると、環境保護庁と州は1000以上の施設の許可を行ったが、既存の5000施設のうち約3分の2が許可を得られないため閉鎖された。しかし、その閉鎖施設も監視が必要である。また、「許可」自体の問題では、手続きに時間がかかり(-4年)、かつ許可を与える側の人間がたえず異動するので、担当者が訓練不足である。根本的には、有害廃棄物の処理業者が主に規制されて、廃棄物発生者自体が十分に規制されていないところが問題なのである。

 報告は資源保全再生法の執行過程を分析して、まず汚染予防を強調すべきであるという。そのためには有害廃棄物の発生者と「当局に届出していない発生者」に焦点をあてて、罰金と発注停止等の経済的制裁を強めるべきである。刑事訴追などの司法執行は効果のあるものの、改善の余地がある。総じてスーパーファンドの方が注目されやすいけれども、資源保全再生法の重要性を知らせることが重要であるとする。

 報告は浄化是正措置(corrective action)について、これが必要な施設はスーパーファンド地点の3倍になるという。現在、4700の規制施設のうち、60%が閉鎖されつつある。そうなると、閉鎖後の浄化是正措置と管理責任(30年)がますます問題となる。

 

2.マニフェスト(積荷目録)制の効果

 資源保全再生法体系における有害廃棄物の管理の中心に位置するのが、このマニフェスト制である。20年間の実績をもつカリフォルニア州の場合を例にとると、積荷目録には有害廃棄物の発生者・輸送者・処分者・廃棄物の種類と量等の情報を記載し、発生者・輸送者・処分者が確認・署名し、各々1部保管したうえで、州保健衛生部の担当部局に送らなければならない。さらに処分者は30日以内に発生者に目録を返送し、処分を確認する。発生者は処分者からの目録を30日以内に受けとらない場合には、処分者に問い合わせ、45日以内に受けとらない場合、州の担当部局に異例報告をしなければならないことになっている。それぞれの業者がIDナンバーをもっており、目録の集約はコンピュータ化されている。処分業者が破産した場合でも有害廃棄物の発生者が最終責任をもち、マニフェストを作成したうえでさらに年間報告書を州に提出しなければならない。

 日本では1991年に改正された廃棄物処理法で、特別管理産業廃棄物(水銀・カドミウム等を含有する有害廃棄物、アスベスト廃棄物、医療系感染性廃棄物等、政令で指定される)については、管理票システム(マニフェスト)が導入され、管理票を出した事業者に管理票が返ってこない場合の処分の状況確認の義務、都道府県知事への報告が定められている。1997年にさらに改正された廃棄物処理法で、すべての産業廃棄物に拡大されることになった。

 こうした日本のマニフェスト制の将来を予測するうえでも、アメリカのマニフェスト制の実効性を検討する価直がある。カリフォルニア州のマニフェスト制に基づいて、有機塩素系溶剤の処分について検討した研究(37)によれば、1983年の誤報(不完全な目録)率40%が1986年に30%に下がっている。処分方法の変化は、1985-87年にかけて、規制の結果として、埋め立て処分が激減した。そのかわり、リサイクルと焼却処理が増加し、今後、地下水汚染から大気汚染へ問題が移っていくとみられる。このように、マニフェスト制度の結果を見るかぎりでは、規制によって処分方法が大きく変化していることがうかがえる。

 マニフェスト制度を改善するためには、技術面ではバーコードを使って廃棄物の特定をより簡単にし、情報システムについてもデータの訂正等を改善し、データの集約を迅速化する必要があるといわれる。州の担当者(有毒物質コントロールプログラム)によれば、こうした制度には必ず「ぬけ穴」がつきまとい、マニフェスト制度はたんに1つの手段にすぎず、重要なことはいかに廃棄物削減を進めるかであり、そのためにこの制度を使うのであると強調している。

 

3.埋め立て規制

 そもそも、1984年の有害・固形廃棄物改正法(HSWA)による資源保全再生法改正の最大の眼目が、この埋め立て規制(覆土埋め立て、深井戸注入も含む)の強化であった。環境保護庁は、1990年5月までに3段階にわけて各物質別に埋め立て処分のための基準をつくることが求められた。事業者は埋め立て前に検査と毒性を減らす処理を行い、環境保護庁が示す最良入手可能技術と処理基準に合致しなければならない。有害廃棄物の発生者は毒性検査と記録保持義務のため、処理費用は増加することになる。

 こうした埋め立て地による汚染問題の第1は地下水汚染である。環境保護庁によれば、全米163地点の調査で146地点が地下水汚染を起こしている。埋め立て地の6つに1つしか遮水シートがなく、20に1つしか濾過収集装置がついていない(38)。たとえ最良に設計された埋め立て地でさえ、欠陥をまぬがれない。長期的に見れば有毒物の漏れが起こりうるからである。

 さらに問題なのは、産業廃棄物の埋め立てのみでなく、家庭系ごみの埋め立て地も汚染を起こしている。議会技術評価局(OTA)の報告『アメリカのゴミに直面して(Facing American's Trash)(1989)39)によれば、1986年の全米浄化順位表(NPL)850地点のうち、184地点(22%)が家庭系ごみ埋め立て地である。地下水のみでなく、地表水の汚染やメタン発生源(地球温暖化の一因)ともなっている。家庭系ごみは全米で約80%以上が埋め立てられており、産業廃棄物と比べての危険性については、論争のあるところである。一方で家庭系ごみは産業廃棄物が入っていなければ危険ではないという主張があり、他方で家庭系ごみ自体が危険物に変質する可能性があるとする説もある。そのため家庭系ごみの埋め立て地についてスーパーファンドの責任当事者から都市をはずすように都市側は主張し、産業界は逆にそれに反対である。家庭系ごみの埋め立て規制は1984年の資源保全再生法改正に基づいて同法の「サブタイトルD」(D章)で新しく規制されるようになったが、州にリスク水準を決めさせて、それによっては遮水シートや濾過収集装置を必要としない場合もありうる。これでは規制が逆効果になりうる。

 厳しくなる埋め立て規制が廃棄物の処理費用を高め、結果として廃棄物削減やリサイクルへの刺激となっているのは確かであるけれども、現実には規制が先行して新しい処理方法の技術開発と廃棄物削減が間に合わない実情である。だからこそ不法投棄もあとをたたないのである。

 埋め立て規制から出てくるもう1つの方向は、焼却の増加である。現に埋め立て地の不足している東部諸州、なかでもコネチカット州では家庭系ごみの過半を焼却しているし、産業廃棄物自体も焼却の割合がふえている。しかし、焼却による大気中への化学物質の放出、ダイオキシン類の発生、焼却灰の処理等の新たな問題が出ているのも知られるとおりである。この点で、連邦最高裁が1994年に、環境防衛基金(EDF)がシカゴ市を訴えた裁判で、資源保全再生法の規定は都市焼却灰を有害廃棄物に含めて、適用除外していないという判断を下したのは重要である。問題が地下水・地表水汚染から大気汚染へ移っただけでは、いわば「もぐらたたき」も同然で、問題の解決になっていないのである。したがって、廃棄物発生そのものに遡って廃棄物削減をはかり、さらに生産過程の変更や原料選択の再検討まで行わなければ展望は開けなくなっている。そのため、廃棄物の削減と汚染予防をはかる新しい汚染防止法(Pollution Prevention Act of l990)が、ようやく1990年に立法化されたのである(40)

 

4.リサイクルの間題点

 廃棄物削減をはかるうえで、リサイクルが重要な役割を果たすことはいうまでもない。しかし、このリサイクルがしばしば新たな汚染源となりうる。環境保護庁は、5つのリサイクル物質を固形廃棄物(スラッジ、スクラップ、化学副産物等)とみなしている。だが、資源保全再生法をはじめとする廃棄物関連法はリサイクルを促進するために、再生鉛バッテリー業等の「リサイクル業」には、有害廃棄物関連法を適用除外している。カリフォルニア州では、この業者数は1万以上になると推定されている。そのためこの「リサイクル業」による汚染問題がしばしば発生する。シリコンバレーのドラム缶再生業者による土壌・地下水汚染問題(ロレンツ・バーレル社等)はよく知られており、連邦スーパーファンド地点の約10%(112件)がリサイクル関連であるとみられる。1985年には環境保護庁が、有害廃棄物のリサイクルによる83の事件を報告している。最近の例では、セメント・キルン等で燃料として使われる十分精製されていない廃油や廃溶剤が大気汚染を起こしている問題が報告されている。

 このような事態があるにもかかわらず、環境情報公開制度の有毒化学物質放出年間目録(TRI)では、リサイクル関連の物質移動の報告義務は以前にはなく、質源保全再生法も「リサイクル」関連の例外規定がある。汚染問題をおこす「リサイクル」は真のリサイクルではなく、「にせのリサイクル」(sham-recycle)であるといわれる所以である。「リサイクル」至上主義におちいるのではなく、リサイクルはあくまで廃棄物削減・原料利用削減のための手段であって、目的ではないことが銘記されねばならない。

 

5.資源保全再生法の再授権間題

 資源保全再生法の再授権をひかえ、最大の問題は「有害廃棄物」の範囲と、廃棄物の州間移動の問題となった。すでに見たように、資源保全再生法には多くの例外規定があり、現行の資源保全再生法では、再生油や鉱業廃棄物等と、いくつかの「リサイクル」関連の廃棄物が除外されている。これに対して環境団体からその見直しを求める動きや、廃棄物削減とリサイクル率を上げる規定を資源保全再生法にもり込む要求が出されている。もう1つの大きな問題は、廃棄物の州間移動の規制間題である。現在、東部諸州の埋め立て地が不足するなかで、環境保護庁のデータでは全体の2%にすぎないとされるが、多くの廃棄物が中西部へ送られている。またカリフォルニア州等は、資源保全再生法の規制以外の独自の廃棄物規制を行っているので、他州へ行けば規制されないとして、ユタ州・アイダホ州・アリゾナ州へ、1989年で約20%近くが移出された。これに対して廃棄物の純移入州であるアラバマ州や南カロライナ州は、廃棄物移入の制限を立法化しようとして、司法省や廃棄物処理業界から訴えられた。このアラバマ州の廃棄物処理法は、1990年8月のアトランタ連邦控訴裁判所によってくつがえされた。その理由は廃棄物の州間移動の制限は、憲法の商業条項に違反し、連邦政府の有害廃棄物管理制度を堀り崩すおそれがあるというのである。1991年5月には連邦最高裁判所も、同様の判断を下している。

 環境保護庁は、州間移動問題を資源保全再生法の再授権問題と切りはなす意向といわれるが、議会では高い料金をとって一定の有害廃棄物の州間移動をみとめる案が検討されている。この州間移動問題を環境団体がどう見ているかといえば、たとえばシエラ・クラブ等は環境政策全体のなかで位置づけるベきで、禁止しても問題は解決しないといい、廃棄物削減と発生源での処理を強調している。企業側も最近では補償責任を最小化しようとするために、州間移動を減らして、廃棄物削減への動きが強くなっているといわれる。

 その後、資源保全再生法は1992年の連邦施設遵守法によって連邦施設へも適用されるようになったが、1995年3月に、環境保護庁の固形廃棄物局(OSW)は、クリントン大統領の「環境規制の再活性化プログラム」の一環として、資源保全再生法規制の見直しを行う分析検討を示した(41)。その基本は、時代遅れの重複した規制をなくし、不要な報告義務を減らし、資源保全再生法規制の70以上を変えるか、なくす方向である。重要点は、使用者にわかりやすい規制を、重複を避けて、自主申告に基づいて行うことで、具体的には、

.廃棄物の再定義(固形廃棄物と有害廃棄物の定義がわかりにくい、有害廃棄物の安全なリサイクルへのディス・インセンティブを取り除く)、

.混合派生廃棄物問題を解決する、

.「サブタイトルC」(C章、産業廃棄物)の是正措置をより常識的なものにする、

.許認可を簡単にする(直接規制を減らし、許認可にかかる時間を短くする)、5.重要な情報を収集する(マニフェストシステムを電子化して、負担を減らし、公衆がアクセスできるようにする)、

.埋め立て規制の簡素化、

等である。これを受けて1996年3月には、「埋め立てプログラム柔軟化法」が成立している。

 環境保護庁は、全体として環境規制の効率化をめざし、企業側の自主的な取り組みを促すプログラムであるXLプログラム(エクセレントとリーダーシップを意味する)とコモンセンスプログラムをはじめ、不要な規制を減らす方向であるが、これに対して、環境団体は、環境規制緩和は、注意深く行うことが必要で、住民の参加が重要であると主張している。

 

むすび―日本が学ぶべきこと

 アメリカの有害廃棄物の管理の歴史と現状は、一度発生した有害廃棄物を有効に管理・処分することがいかに困難であるかを示している。また過去の有害廃棄物による汚染を浄化するには膨大な費用がかかり、かつまたその浄化費用の負担配分それ自体をめぐり争いが発生し、それを調停・調査する「取引費用」が浄化費用そのものを侵蝕し、浄化が進まないという事態が生じている。

 処理費用と補償責任費用の増大に直面した個別企業は高い処理費用を払うか、廃棄物を削減し、リサイクルを進めるか、不法投棄をするかの選択に迫られる。最後の手段、すなわち不法投棄を抑止する要因は罰金や社会的評価の低落等が考えられ、不法投棄は長期的にみて、とりにくい対応策となる。そこで「あと始末的な」高い処理費用を払うか、廃棄物を削減(リサイクルを含む)するかの問題となってくる。そのため、今日では「廃棄物削減(減量)」は有害廃棄物問題解決のうえで、「キーワード」となっているのである。

 廃棄物削減のためには、さらに使用する原材料についての再検討やライフサイクルアセスメント(商品の一生を天然資源の消費・生産・流通・消費・再利用・廃棄で総合評価する)までも進まなければならない。こうして最近のアメリカでは、有害廃棄物対策の成果と限界をふまえて、廃棄物削減から生産過程の変革、原料政策の検討、ライフサイクルアセスメントにまでようやくすすみ始めている。苦難と試行錯誤にみちたアメリカの有害廃棄物問題から学ぶべきことは、こうした教訓と方向であろう。

 かえりみて、日本の有害廃棄物問題は、いわば「時限爆弾」をかかえた氷山の一角がようやくあらわれた段階である。アメリカなみの費用をかけて調査を行えば、多くの地質汚染地点が確認され、本格的な浄化には膨大な費用がかかるであろう。他方、マニフェスト制もようやく始まったばかりで、地球環境問題が強調されるわりには企業の有害廃棄物問題への関心はそれほど高くない。これは1つには、日本で有害廃棄物に対する発生者の最終的責任が十分に確立されておらず、日本型下請けシステムのもとで廃棄物の処理を負担転嫁できたからである。しかし、こうした体制はいつまでも続くわけではない。有害廃棄物指定物質がアメリカ450種類、日本11種類(特別管理廃棄物の規定のできる前の旧廃棄物処理法の規定)等、日米の有害廃棄物の規制水準や罰則には大きな開きがあり、このことが日本に対して、環境保全費用を節約し、ダンピングしているという批判を生じさせるに十分なところに来ているように思われるからである。これに関連し、アメリカの製造物責任制度による「混乱」(42)を1つの理由として、日本での同制度の導入に慎重な意見がみられた。それと同じようにスーパーファンドによる「取引費用」の膨大さや資源保全再生法の有効性への疑問を根拠にして、日本における有害廃棄物発生者関連の責任をあいまいにしておけば、日本の有害廃棄物問題は将来一層深刻化するであろう。
 



 

(1)Jane Kay,Toxic Racism, San Francisco Examiner, April 7-10.l99l.

(2)Commission for Racial Justice,TOXIC WASTE AND RACE in The United States,1987.1994年に出された同報告の改訂版も、1993年の530の資源保全再生法施設のデータをもとに、この傾向が確認されているが(Center for Policy Alternatives,1994)、これと異なる結論の研究もある(U.S.GAO,10 Studies on Demographics Near Waste Facilities, GAO/RCED,95-158R,1995)

(3)環境上の人種差別の問題は、政治的課題としても取り上げられ、19942月には「マイノリティ−人口と低所得人口における環境上の正義を確保するため」の大統領行政命令が出されている。この問題については、Robert D. Bullardの一連の研究が参考になる。Dumping in Dixie: Race, Class, and Environmental Quality, Westview Press, 1990.Overcoming Racism in Environmental Decisionmaking,, Environment,Vol.36,No.4,1994. なお、環境保護庁は1992年に特別報告のEnvironmental Equity: Reducing Risk for All Communities(EPA230-R-92-008)を出している。これについて先のBullardらは、同書所収のコメントおいて、環境保護庁の報告は偏った文献研究で、人種上の差別を否定し、階級上の問題に還元し、差別的土地利用計画、規制の差別的執行、不平等な立地等にふれておらず、単なる宣伝文書であると、厳しく批判している。Dowie,M

(4)1997年度のエネルギー省関係の浄化予算は59億ドルで、スーパーファンド関係予算14億ドルよりはるかに多い。Inside EPA's Superfund Report,Vol.X.No.6.1996,p.14.

(5)Harold C.Barnett, Toxic Debts and the Superfund Dilemma, The University of North Carolina Press, 1994, Chapter 4.

(6)David Vogel, National Styles of Regulation, Environmental Policy in Great Britain and The United States, Cornell University Press,1986,p.25、諏訪雄三『アメリカは環境に優しいのか』新評論、1996年、第1章、北村喜宣「権威不信とアメリカ環境法(上)(下)」『ジュリスト』No.1100,No.1101,1996年、久保文明『現代アメリカ政治と公共利益』東京大学出版会、1997年参照。

(7)Katherine Probst et al., Footing the Bill for Superfund Cleanups, Resources for the Future, 1995, p.15, Fig.2-1.

(8)植田和弘「スーパーファンドの中間決算書」、『公害研究』第194号、1990年、16-17頁参照。なお、スーパーファンド法の詳細については、安田火災海上保険編『土壌汚染と企業の責任』有斐閣、1996年第1編参照。また、スーパーファンド法の自然資源損害規定については、竹内憲司『経済学的環境評価の政策利用に関する研究』京都大学博士 (経済学)学位論文、1997年、栗山浩一『公共事業と環境の価値-CVMガイドブック-』築地書館、1997年、第3章参照。

(9)Roger Dower,Hazardous Wastesin Public Policies for Environmental Protection, ed., by Paul Portney, Resources for the Future,1990, pp.175-176

(10)会計検査院の報告書(U.S.GAO,Superfund,Operations and Maintenance Activities Will Require Billions of Dollars, GAO/RCED-95-259)によれば、浄化が完了したといわれる275地点の3分の2の調査結果、浄化完了地点の運営維持費は2040年までに推定約320億ドルにのぼる。

(11)Office of Technology Assessment, Coming Clean: Superfund Problems Can Be Solved ,1989.

(12) スーパーファンド地点の90%が、将来その地点に住む人口のリスクに向けられているという研究もある。James Hamilton et al.,The Magnitude and Policy Implications of Health Risks from Hazardous Waste Sites, in Richard Revesz et al.ed., Analyzing Superfund,Economics, Science, and Law, Resources for the Future, 1995, p.78.

最近の調査は、サイト数と浄化の程度に応じて費用が大幅に異なることを示している。Milton Russell et al.,Resource Requirements for NPL Sites:Phase II Interim Report, Joint Institute For Energy & Environment,1995.

(13)William Reilly, A Management Review of the Superfund Program,1989.

(14) EPA Office of Solid Waste and Emergency Response, Superfund 30-Day Task Force Report, l99l.

(15)The Report of The Science Advisory Board: Relative Risk Reduction Strategies Committee, Reducing Risk: Setting Priorities And Strategies For Environmental Protection,1990.

(16) John A.Hird, Superfund, The Political Economy of Environmental Risk, The Johns Hopkins University Press, 1994,pp.114, 217, 253.

(17)Testimony of Blakeman Early, Sierra Club, in Progress of the Superfund Program, Hearing before the Subcommittee on Oversight and lnvestigations of the Committee on Energy and Commerce House of Representatives. One Hundredth Congress Second Session, June 20,1988, Serial No.100-203.p.43.

(18)Cirolyn Doty and Curtis Travis,The Superfund Remedial Action Decision Process : A Review of Fifty Records of Decision,JAPCAVoI.39.No.12.1989.pp.1535-1543.

(19)Katherine Walker et al., Confronting Superfund Mythology:The Case of Risk Assessment and Management, in Richard Revesz et al.ed., Analyzing Superfund, Economics, Science, and Law, Resources for the Future, 1995, pp.29-43.

(20)Environment Reporter, August 10,1990.p.759.

(21)Jan Paul Acton and Lloyd Dixon, Superfund and Transaction Costs,RAND,1992.

(22)Lloyd Dixon et al., Private-Sector Cleanup Expenditures and Transaction Costs at 18 Superfund Sites, RAND,1993.

(23)U.S.GAO, Superfund, Legal Expenses for Cleanup-Related Activities of Major U.S.Corporations, 1994(GAO/RCED-95-46).

(24)CBO Testimony, Jan Paul Acton, Subcommittee on Superfund, Waste Control andRisk Assessment Committee on Environment and Public Works U.S.Senate, April 27, 1995.

(25)Statement of Jonathan Cannon, Acting Assistant Administrator for Solid Wasteand Emergeny Response, U.S.EPA. in EPA's Implementation of the Superfund Program.Hearing before the Subcommittee on Investigations and Oversight of the Committee on Public Works and Transportation House of Representatives. One Hundred First Congress, First Session, October 31,1989.pp.64-65.

(26) Footing the Bill for Superfund Cleanups, Resources for the Future,1995, pp.9-10.

(27) CBO Testimony, Jan Paul Acton, Subcommittee on Superfund, Waste Control and Risk Assessment Committee on Environment and Public Works U.S.Senate, April 27, 1995.

(28)Katherine Probst and Paul Portney, Financing Supefund Cleanups: The Search for a better Mechanism, A Preliminary Analytical Framework, Resources for the Future, 1991.

(29)(30) U.S.EPA, An Analysis of State Superfund Programs: 50-States Study,1995 update, 1996.

(31) Harold C.Barnett,Toxic Debts and the Superfund Dilemma, The University of North Carolina Press, 1994,Chapter 5.

(32)State of California, Department of Health Services,Expenditure Plan for the Hazardous Substance Cleanup Bond Act 1984, Revised January l989, Revision No.4.

(33)Timothy Fields,Jr.,The New Superfund Revitalization Program and Private Party Cleanup. Site Cleanup, 1994.訳は「Talisman別冊・海外進出と環境汚染シリーズ・米国編その23・米国スーパーファンド法 その5」東京海上火災保険、1994年。

(34)Lynne Miller and Douglas Gladstone, Clinton Administration Superfund Reauthorization Bill, Environmentral Strategies Corporation, 1994.訳は「クリントン政権のスーパーファンド再授権法案」『NBLNo.551.1994年。

(35)全米では、200万以上の各種地下貯蔵タンクのうち約20%が漏れており、そのうち約30万の漏れが確認され、うち43%が浄化に取り組んでいるという。U.S.GAO,Environmental Protection:Selected Issues Related to EPA's Fiscal Year 1997 Appropriation(GAO/T-RCED-96-164).

(36) U.S.EPA, The Nation's Hazardous Waste Management Program at a Crossroads, The RCRA Implementation Study,1990(EPA/53O-SW-90-069).

(37)David Pekelney, Hazardous Waste Generation, Transportation, Reclamation,and Disposal: California's Manifest System and The Case of Halogenated Solvents,,Journal of Hazardous Materials.Vol.23,1990.pp.293-315.

 有機塩素系溶剤の事例について、1987-1990年のTRIを使用して、各州の廃棄物税の「廃棄物発生と処分」への影響を調べた研究によれば、1,廃棄物の発生量は、焼却コストに敏感であるが、2、廃棄物税は全管理コストに対してはわずかの割合であり、3、廃棄物税は処分に大きく影響しているが、カリフォルニア州を除くと、大きくはなくなる。Hilary Sigman,The Effects of Hazardous Waste Taxes on Waste Generation and Disposal,Journal of Environmental Economics and Management,Vol.30,1996,pp. 199-217.

(38)Richard Denison(Environmental Defense Fund)ed., Recycling and Incineration,Evaluating the Choices,Island Press.1990.p.5.

(39)Office of Technology Assessment, Facing American's Trash, What Next for Municipal Solid Waste?, 1989,p.284, 288, 291.

(40)久保文明「米国環境保護政策の「転換」-公害未然防止政策の展開をめぐって-」慶應義塾大学『法学研究』第68巻第10号、1995年、同『現代アメリカ政治と公共利益』東京大学出版会、1997年所収参照。

(41) U.S.EPA,OSM,RCRA Regulatory Reform Analysis An Overview ,1995.

(42)岡崎新太郎『全米PL制度徹底追跡』化学工業日報社、1994,参照。


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